ぶた子の長文書き捨て場。

映画モーコンとDBZについて書きなぐりたかっただけなので他になにもありません。

映画『モータルコンバット(2021)』の主人公に文句言うヤツをドラゴンボールZしか400年間観られない地獄に堕としたい。


2021年公開映画『Mortal Kombat』の否定的な評価のひとつに「主人公のコール・ヤングがいらない。魅力がない。観客が作品世界に入るためのアバター係しか役割のないつまらないキャラ。」と言うものがある。

そもそも人気キャラクターが大量にいるのに、なんでオリキャラねじ込むの?

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不純物扱いされるのはオリキャラの宿命であることはわかってる。何も知らない主人公が徐々にルーツを知っていき、特別な血統の生き残りであると判明する物語なんて確かにもう時代遅れだ。しかしこの映画の場合はそんな単純な話じゃないんだ、他の人種のオリキャラ主人公とはわけが違うんだと言いたい。
それは、コールの物語の一部はドラゴンボールZ孫悟空を思わせるもので、孫悟空とはアジア系移民が自分を重ねられる数少ないヒーローであり、世界的に有名なキャラクターだからだ。(ここでいう孫悟空とは、原作漫画やフランチャイズ全体の主人公ではなくアニメ「ドラゴンボールZ」を独立した作品として考えたときのシュジンコウだと思って欲しい。)

 

悟空は何度も地球の危機を救ってきた。悟空と出逢ったこともない人々の人生も。
それと同時に製作者たちの意図とは関係なく、悟空はアジアンアメリカンやアジアンカナディアンなどの子どもたちの心も救ってきたのだ。

DBZフリーザ編までは、家庭を持ち幼い息子に自分が何者であるか教える過程にいる悟空が、同時に自分が何者であるか知っていく物語でもある。
物語の開始時点では、彼は自分の出自について関心がないが、サイヤ人ラディッツの襲来をきっかけに自分のルーツを知っていく。
ラディッツからフリーザを倒すまで、突然現れたヤツが自分のルーツについて何度も一方的に教えてくる。オラそんなことは知らねぇ!なんだそれ、あんまり興味もねぇ!
ナメック星でギニュー特戦隊
お前サイヤ人か?サイヤ人なんて取るに足らない存在のはず!ハッ!?でも超サイヤ人の伝説を聞いたことがある!お前もしかして!?いやそんなバカな!…とかなんとか勝手に言ってくる。
「…オラにはなんのことかさっぱりわからねぇ…」

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わかんねぇけどワクワクしねえ失礼なことを言われてるのはわかる。でも「そんなことねぇよ!惑星ベジータはいいところだ」とか「いやサイヤ人ってよ、そんなんじゃねぇよ!」とか言えねぇし言いたいともあんまり思わねぇ。惑星ベジータのことなんてオラ覚えてねぇしサイヤ人の歴史や文化がどんなもんか知らねえし、そもそも反論したいほど親しみも持ってねえ、そこにアイデンティティを持ってねえ。だって地球育ちだしオラの親はじっちゃんだ。
あとオラが「アイデンティティ」って言うとなんかおもしれえ感じになっちまう。

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この戸惑いはアジア系がマイノリティの国で暮らすアジア系移民二世以降が抱くそれそのものだ。

コールは魔界VS人間界の支配権を争う大会とかいうこれだけでもフリーザとかいう超強くて超悪いヤツが宇宙を超支配するよりもだいぶわけわからん状況を知らされ、しかも自分は滅ぼされた一族である白井流の忍者ハンゾー・ハサシの子孫であり、戦うことを運命づけられた存在であるという、さらにわけのわからんことを受け入れろと言われる。ハチャメチャが押し寄せて来すぎである。
そうなんだ!?俺はシカゴ育ちの孤児だしアジア系というだけで自分のルーツに日系が入ってたのも知らなかったし日本のこともよく知らないのに伝説的な忍者の子孫…!?ちょっとついていけない。

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全然知らない祖先の話なんて何世代前のことだろうが本人の実感にあんまり変わりはない。

そんな彼らにその血統に強い誇りと帰属意識を持つ人物が「自分が何者であるか思い出せ、知れ、当事者意識を持て。」とイデオロギー的なことをこれまた一方的に要求してくる。
スコーピオンとベジータだ。
スコーピオンはコールが落ち込んでても疲れて寝ててもお構いなしに地獄からなんか怖い顔して訴えてくるしベジータはずっとサイヤ人としてカカロットとか呼んでくる。

迷惑な話だ。顔が真田広之だからって調子に乗らないでほしい。

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死にゆくベジータは、自分が大切にしていた全てを一族郎党もろとも滅ぼされてしまった無念を涙ながらに悟空に語る。
「フ…フリーザがやりやがったんだ…オレたちサイヤ人は…あいつの…手となり足となり…
命令どおりに…働いてたってのに…オレたち以外は…全員…殺された…キサマの親父も…オレの親である王も…」「頼む…フリーザを…フリーザを倒してくれ……頼む…サイヤ人の…手で…」
この無念さをどうかわかって欲しい、このままじゃ死んでも死にきれない、託せるのはお前しかいないんだと。

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そのとき悟空はベジータの亡骸を弔いながら、ものすごく大切なことを言う。
「おめえは大っ嫌いだったけど…サイヤ人の誇りは持っていた…オラもすこしわけてもらうぞ。その誇りを…。

移民である彼は、どうしたってネイティブと完全に同じ気持ちにはなれないし、正直言って支持できない部分もあるし、違う種族の奴らに勝手に一緒くたにされるのも不愉快だ。

しかし我々は、誇りの一部をシェアすることはできる。その誇りについて私が詳細に理解できなくても、それが間違いなく私の一部であると意識することはできるし、その誇りと共に戦うことは、私の強さになると。

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そう宣言して悟空はフリーザとの決戦に挑む。

 

クライマックス直前、ライデンはコールに
「これは半蔵の遺したものだ。持っていろ。半蔵のスピリットが、お前と共に戦う。」と半蔵のクナイを渡す。コールはクナイの使い方なんて知らないし400年前の血痕がついたままのクナイとか貰っても使えないし。使ったけど(笑)。*1
しかし誇りの一部と共に戦うのだ。

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そしてモータルコンバットの物語はDBZを超えていく。

 

同じ人種だが異なる文化を持つ者同士が結束するために必要なのは、違いを認め合いながら誇りの一部をシェアすることだ。全部じゃなくていいんだ、少しでいいんだ。

サブゼロ/ビ・ハン役ジョー・タスリムはインドネシア人でコール・ヤングを演じるルイス・タンはイギリス人だ。忍者が日本にとってなんたるかなんて、彼らが詳細に知ろうが知るまいが(つうか私だってそんなもん知らん)「忍者も侍も白人がイキがるためにいるんじゃないよ」と、真田広之浅野忠信と一緒に言うことはできる。それぞれ異なる文化からなるマーシャルアーツのスペシャリストであるクン・ラオ役マックス・ファン、リュウ・カン役ルディ・リンも、武闘家としての誇りをシェアして一緒に言うことはできる。少林の拳法家もカンフーファイターも同じだよ。アジア人は白人メインキャストに蹴散らされるためにいるんじゃないよ。アジア人は他の人種がからかって楽しむためにいるんじゃないよ。
私たちも一緒に言える。

 

 

この映画では、モブも含めてアジア系のキャラクターが何人も暴力的に死ぬ。*2だけどこの映画では、アジア系を殺すのもアジア系なのだ。

 

蘇ったスコーピオンは超カッコいいけど「白井流のために。」と言うときコールを見てるしずっと日本語で話しかけてくるし去り際に「我らの血統を守れ…。」とかいう調子で、やっぱりなんかちょっとズレてんな、完全には分かり合えないかな~って感じだ。「溶けた氷の中に子孫がいたら白井流仕込みたいね」とか言い出さないうちにどっか行ってくれてよかった。

Pourquoi Scorpion utilise une voix différente pour la ligne Get Over Here  de Mortal Kombat - Juicee News

生き返ったあとのベジータも「サイヤ人の王子であるこの俺がどうのこうの、おいカカロットきさまもサイヤ人としてどうのこうの、サイヤ人サイヤ人サイヤ人カカロットカカロットおいカカロット」ってずっとうるさいし重い。

押し付けがましい!
このふたりはこの時点では善人てわけじゃないし、そこに固執していた彼らに変化が訪れるのはこの後のお話だ。(原作ゲームでスコーピオンがたびたび善悪の揺らぐキャラであるという点においても、この点においてもこの映画のスコーピオンを善側に寄せすぎたのは描写として不十分だと思う。)


でもこれって移民がやられがちな言動。
日系外国人や二重国籍のアスリートとかミックスレイスの人たちに対して「日本人ならどうこう、日本人としてどうこう」ってジャッジするの日本人はめっっっっっちゃやってる。それは最低だと認識しつつも彼らの中に日本っぽい要素を見つけたらやっぱりちょっと嬉しかったり。

アイデンティティをどこに持つかなんて本人が決めることだし育った場所がそうなるのは自然なこと。ましてや悟空やコールに実親はいないし育ての親もルーツのことを知らないので、親しみを持つような教育も当然受けていないのだからなおさらだ。誰も彼もがルーツについて学べる機会があるわけではない。

 

仮にコールや悟空がスコぴとベジータ
「わかる!あーもう俺ハンゾーさんの言ってること超わかります!俺って超日本人らしい日系アメリカ人だし~、超ニンジャだもん!RTといいね400回したいっす!白井流フォーエバー!」とか言ったり「わっかるぞ!オラ、おめぇと完全に同じ気持ちだ!だってオラってなんかこうすっげえサイヤ人らしいし、ていうか超サイヤ人だもんな!!アッハッハッ!」とか言おうものなら、スコーピオンさんとベジータ王子はわかって欲しいとさんざん要求してたくせに「ハァーーッ貴様に何がわかると言うのだ!?」とか怒り出してコールと悟空をしばくだろう。スコぴなんて結構根に持つタイプだからまた何年も恨んでくるかもしれないし、もしかしたら金玉をグーで殴ってくるかもしれない。いくら悟空やコールがやんちゃボーイでもそんなトラブルとは遊ばないで無難に回避したほうがいいと思う。

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でも、違いを埋めることはできないけど誇りの一部をシェアすることはできる。そうしなくてもいいし、そうしてもいい。それでいいんだ。

 
DBZ血統主義的で男女格差も露骨だし超サイヤ人の見た目が白人ぽい…という問題はある。でもアジア系にとって悟空は特別で、悟空がいてくれたことに救われてきたアジア系移民の気持ちも、絶対に無視はさせない。まんまブルース・リーフォロワーであるリュウ・カンと悟空フォロワーキャラを並べたくなるくらい悟空も大切なヒーローなんだ。
アジア系であるというだけで軽んじられてきた私たちにはその種族であるというだけで最強な可能性があると言ってくれる物語もまた必要だ。そこに気が付きもしない、ましてアジア系ルーツを持たない視聴者に「コールくん邪魔なんですけど(笑)。彼に帰るように妻と娘が電話してくれればいいのに(笑)。」*3 とか言われるなんざ、俺んちが燃えてるから消防車が来てくれたのに「消防車とか邪魔なんですけど(笑)。必要ないんですけど(笑)。」と近所に住んでもいない奴に言われたような気分だ。誰だおまえは。

 

いまや韓国系米国人役者のスーパースターであるスティーブン・ユァンが主人公マーク・グレイソンの声優を務める「インビンシブル~無敵のヒーロー~」もまた、そのルーツゆえにスーパーパワーを得て、戦う運命にあるアジア系ヒーローの物語だ。

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言うまでもなくスティーブン・ユァンはウォーキング・デッドのグレン役で、ありがちなアジア系トークンとして登場し、その壁を壊した人物である。

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まだスーパーマンみたいなことやってんのかとか血統主義要素なんて古いとかは役者の雇用機会が均等になってから言ってくれ。
アジア系のヒーローがもっと普通にいる世界になってから言ってくれ。シャンチーが実験台呼ばわりされない世の中になってから言ってくれ。
2007年~2019年までのハリウッドの上位興収1300作品においてアジア&太平洋諸島(AAPI)のセリフがあるキャラはわずか6%未満、ましてコールのようなアジア系アメリカ人の男性主人公の作品は少なすぎるのに。*4
滅ぼされし血統の生き残りである戦士…が時代遅れになる前にアジア系の役者にほとんどチャンスをくれなかったくせに。

本作では人間界の戦士たちを指導する役割を担うクン・ラオが、その特別な血統と家名に人生を捧げる選択をしているが、その高潔さに目が眩んでコールのような在り方を無個性だとか奥行きのない人物造形だと感じるのなら、おめぇこそいろいろでぇじょうぶか?

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それに悟空は特別な血統を持っていたけどそれだけで最強なわけじゃない。ものすごい努力家で、不屈の精神を持っていた。コールくんの強さに至っては白井流とは一切関係がない。

 

私たちはみんなドラゴンボールの実写化に大変なトラウマを持っていて、それはもう思い出そうとしただけで、なんかこう意識が…光る雲を突き抜けFly Away(Fly Away)するくらいからだじゅうに広がるトラウマだ。

しかしドラゴンボールZは実写化すべきなのである。
DBZほど世界的な地名度と人気があって、アジア系が活躍できそうな作品はそうそう無いのだ。悟空を演じたいアジア系俳優はたくさんいる。本作でリュウ・カン役を演じたルディ・リンもそのひとりだ。悟飯、ベジータクリリンもメインキャストとしてアジア系役者の起用が見込める。モータルコンバットではアジア系武闘家の2人の目の色がパワーアップ後に生来の焦茶色から青や黄緑に変わる演出があるが、それが白人の真似事をしてる風ではなくちゃんとアジア系らしさを保ったまま表現することに成功しているので、優れた美術チームを雇えば超サイヤ人だってなんとか白人風にしないで、でもこれはまさしく超サイヤ人だと誰もが思えるデザインを作れるのではと期待させてくれる。そしてなによりあの道着だ。

 

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映画、ゲーム、アニメ、ファッション…
世界中のあらゆるポップカルチャーの中でずっと背景にされてきたこの山吹色が、
ド真ん中に来る日をずっとずっと夢見てきた。
その日はもうすぐだとモータルコンバットを観た今は思える。

 

 

 

 

 


なお、文章内で散々引用しておいてなんだが、DBZのOP曲は各国でバラバラなので「CHA-LA HEAD-CHA-LA」や「WE GOTTA POWER」の国際的地名度は作品自体と比較すると高くない。

 

 

 

 

*1:スコーピオンを冥界から開放する条件が「クナイについた半蔵の血にコールくんの血を重ねること」っぽいのでライデンのこれはまあまあの詭弁である。スピリットもなにも本体出てくること期待して渡してるだろ。ライデンてこういうとこあるよね~。

*2:https://www.npr.org/2021/05/18/998075650/movies-bypass-asian-and-pacific-islander-actors-and-directors-study-finds?utm_source=twitter.com&utm_medium=social&utm_term=nprnews&utm_campaign=npr

*3:https://doubletoasted.com/shows/mortal-kombat-review-the-mitchells-vs-the-machines-review-and-more-dt-power-hours-live-700-pm-cst/

*4: AAPIが主演の映画自体が少ないのに、その三分の一がロック様が主演 https://www.nbcnews.com/news/asian-america/third-lead-asian-american-pacific-islander-roles-top-films-played-n1268086